RI-ONとの決戦を前に、ヒカルが仲間になった。
 自分勝手で我が儘で協調性が人一倍ないヒカルも、レイジ君の天然な人懐っこさの前にとうとう陥落したらしい。
 コレで多少でも引き籠もりが治ってくれれば、地球に帰った後の僕の憂いも少しは減るかもしれないな、なんて。
 のんびり構えていたワケなんだけど。
 
  

 
 

 

〜保護者からの脱皮〜
 

   

 

  
 
 取り合えずこれからの指針を立てるため一旦エンスイさんのところに戻ってきた僕たちは、現在円卓を囲んで少し遅い夕食を取っていた。
 今夜のメニューはメグルさん特製のビーフシチュー。
 と言っても、どうやら肉は牛とは違うらしい。
 怖いので誰も詳しくは聞かないけど。
  

 各自で器に欲しい分だけ盛っていく。
 皆が皆成長期であるため、見る間に減っていくシチュー。

 
 だけど・・・。
  

 ちらりと見れば思った通り、隅っこに座ったままぼんやりと一人、どっか違う世界に行っちゃってるヒカル。
 このまま放っておけば確実に食いっぱぐれることは間違いない。

 
『全く・・・世話が焼けるんだから』
 

 僕は内心愚痴を零しつつ、別の器にヒカルの分を取ろうとした。

 
 しかし。
 

「おう氷室!オメー。そんなトコにいても誰も飯運んでくんねーぞ?」
 

 ここにいる全員の中で一番デカい器に、山盛りのシチューを盛ったロッカクがドッカリとヒカルの隣へ腰を下ろす。
 そうして、自分の器をヒカルの目の前へと差し出した。
 

「ホレ、欲しいだけ食え」
「・・・・・・・・・・」
 

 差し出された器とロッカクを、興味無さげに交互に見遣るヒカル。
 

 あーあ、ヒカルはきっと無視しちゃうだろうから、ロッカク怒るだろうなあ・・・。
 

 宥めに入るの面倒だな〜・・・と半ばうんざりしていた僕は。
 

「おう、ちゃんと肉も食えよ」
 

 妙に機嫌のいいロッカクの言葉に、慌ててもう一度そちらを見た。
 

 そこには。
  

 ロッカクの手から差し出される肉の塊を、薄い唇で受け止めているヒカルの姿が・・・・っ!
 

「なっ?!」
 

 余りの光景に固まってしまった僕の横で。
 

「あはは〜。なんか親鳥がヒナに餌あげてるみたいだね〜」
 

 なんていう、タイヨウさんののほほんとした声が。

 
「オイ、もっと食え!どれがいいんだ?」
「・・・別にどれでも構わない」
「そっか。んじゃ次はコレな」

 
 そう言って次にロッカクが指先で摘んだのは大きめのジャガイモ。
 

「ホレ、口開けろ」
「ん・・・」

 
 目を細めて、ロッカクの指ごとジャガイモを口に含むヒカル。
 

 ちょっとーーーっ!?
 ロッカクなんでスプーンとかフォークとか使わないわけ!?

  

 しかもヒカルはなんで文句も言わずにロッカクの手からご飯食べてるわけさっっっ!?
 よくそんな手も洗ってなさそうな男から食べ物もらう気になるねっ!?

  

 信じられないっ!!!
  

 

「・・・す、純柴・・・?」
「なにっ!?(怒)」
「(ビクっ)お、おたま曲がってるんですけど・・・」

 
 妙にオドオドとした萩原くんに指摘され視線を落とした先には、僕の手の中で湾曲に歪んだおたま。
  

 ・・・・・・・・・・・・。
 

「す、純柴?」
「・・・・・・コレって、随分安物だね」
  

 僕はふん、と鼻を鳴らして、おたまとヒカルのために用意した器を放り出した。
  

  

 馬鹿馬鹿しい。
  

 可哀想だと思って気を使ってやるんじゃなかったよ、全く。
 

  

 僕は心の中で毒づきながら席に着くと、自分の分のシチューを掻き込む。
  

 頭の中でずっと文句を並べ立てていたせいか、食べ終わったシチューがどんな味だったか覚えていなかった。
 
 
  

 

 

 

  

 

 

 そろそろ夜も深くなる時間帯。
 一応の作戦会議も終わり、各々自分の部屋で休むことになった。

 
「そう言えば、氷室君の部屋、どうしよっか?」
  

 今思い付いた、というように手を打ったタイヨウさんの言葉に、僕はやれやれと肩を竦めた。
 確かにこの屋敷は広く、僕たちも各自一人部屋を貸してもらっている。
 だけどさすがにここまで大所帯になってくると、そろそろ空き部屋も頭打ちだ。
 記憶する限りでは、すぐに使えそうな客間はもう残っていないはず。
 ならば倉庫の一つを空けるにしても、今の時間からでは用意できないだろう。
 タイヨウさんもそう思ったらしい。
 

「取り合えず今夜は、誰かの部屋で一緒に寝てもらうしかないかなあ」
「そうね。ヒカル君、そうしてくれる?」
「・・・ああ」
 
 メグルさんにまで言われてしまえば、ヒカルも渋々とだが同意する。
  

 ・・・仕方ないなあ。
  

 レイジ君は疲れてるだろうからゆっくり休ませてあげたいし、萩原君と橘君はヒカルと一緒じゃ嫌がるだろう。
 となると、結局は僕が妥協するしかないんだろうな。  

 そう思って、溜息を付きつつ名乗りを上げようとしたのだけれど。
 

「じゃあ氷室、今夜は俺の部屋に来い」
「!!」

 
 僕が何かを言うよりも先に、ロッカクがヒカルの頭にぽんと手を置いた。
 

「ヒカル君、ロッカクと一緒でも良い?」
「いいだろ?氷室」
 

 メグルさんの問い掛けにヒカルが答えるよりも早く、ロッカクがぐりぐりとヒカルの頭を撫でる。
 

「・・・ああ」
 

 憮然としながらも頷くヒカル。
 

「ちょっと待ったーーーーーっ!!!」
「え?」
 

 僕は思わず手を挙げていた。
 

 突然のことに目が点になった皆が、僕を見つめている。 
 
 

 ・・・・・・・・・・。
 

 え、えーと。
 

 僕はこほん、と一つ咳払いをして、真面目な顔を作って皆を見返す。
 

「ヒカルはまだ合流したばかりだから、ここのこととかもよくわからないでしょ?」
「それはまあ、そうかも」
 

 僕の言葉に頷くレイジ君達。
 

「だからその案内もしなきゃいけないし、そのついでに今夜のところは僕がヒカルを引き取った方がいいかな〜・・・とか」
 

 思うんだけど、どうよ?
 

 ・・・というか、なんで僕はこんなに必死になってヒカルを引き取ろうとしてるんだろう・・・(汗)

 冷静になると、ちょっと哀しくなるかも・・・。
  

 しかしそんな僕の思考に、周りが気付くわけもなく。

   

「そっか〜。純柴って面倒見良いんだな〜」
「そう言えば純柴君って、氷室君と結構仲良いみたいだもんね」
「別に仲良くはないけど・・・ヒカルとは学校が一緒だから」
 

 なんとなく、自分が面倒みてやらなきゃ、って気になっちゃうんだよねえ。
 自分でもヒカルなんか放っときゃいいのに、とも思うんだけど・・・気付くと世話を焼いてしまってる。

 そのことについては、半ば諦めてもいるんだけど。

 

 僕は溜息を付きつつ、ヒカルへと手を伸ばした。
 

 
「じゃあヒカル、行こうか?」
「案内なら、俺がしてやるよ」
「・・・・・・・なっ!?」

 
 なんだって?!
 

「この屋敷の中、見せてやりゃーいいんだろ?俺の部屋は屋敷の大体真ん中にあるからな。こっからなら歩きながら適当に教えてやれるし」
「あ、そうか。確かにその方が効率は良いかもしれないな」

 
 タ、タイヨウさん・・・余計なことをっ!
 

「んじゃ、行くぞ。氷室」
「ああ」
  

 

 だからヒカルもあっさり頷くなーーーーっ!!! 

 

 って!腰!ヒカルの腰にロッカクの手が・・・・・・っ!?

 

 セ、セクハラだよ!?それって!!!

 

 ヒカル、なんで何も言わないのさっ・・・!?
 

 
 
僕にはいつだって『触るな』って言うクセにっっっ!!!

 
 

「じゃあな」
「うん、オヤスミ。ロッカク。氷室も」
「明日、寝坊すんなよ〜」
「お休み〜♪」
 

 寄り添うように奥へと消えていく二人に、元気良く手を振るレイジ君たち。
 そのまま声を掛け合って自分たちも各々の部屋へと消えていく。
 

「純柴、お休み〜」
「お休みなさい」
「あ、ああ」
 

 僕は半ば呆然とレイジ君や萩原君、雪野さんや橘くんたちを見送って。
 

「ロッカクってば、氷室君のこと気に入ったみたいだね」
「・・・・・・・・・・・・・」

 
 横に立ったタイヨウさんの言葉に、やっと意識を取り戻した。

 

 
 な、なにショック受けてるんだろう、僕は。
  

 いいじゃないか。
  

 あの手間の掛かるヒカルを、物好きにもわざわざ自分から引き取ってくれるって言うんだから。
  

 どうせ今夜一晩で懲りるに決まってるんだ。
  

 そうに決まってるさ。
 

 大体、今までにも親切面してヒカルに近付いた奴で長持ちした例なんてないんだから。

 僕の考えを知ってか知らずか、タイヨウさんが僕の背をぽんと叩く。
  
 
 
「ロッカクってあれで結構面倒見いいから、心配しなくても氷室君と上手くやるんじゃないかな?」
「別に心配してるわけじゃ・・・」
「そう?『ものすごく心配です』って顔に書いてあるけど」
「・・・・・・・・・・・・」

 
 思わず嫌そうな顔をしてしまうと、ぷっと吹き出されてしまった。
  

 くそ・・・。
 

「からかわないでよ、タイヨウさん」
「いや、ゴメンゴメン。一郎君があんまり可愛いもんだから・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「あははは、ゴメン。そんな怖い顔で睨まないで」
「・・・・・・・・・・・・・」
 

 全くもう・・・。
 

 全然悪気のなさそうなタイヨウさんだけど、きっとこの人腹黒いよ・・・。
 まあ、僕も人のこと言えない自覚あるけど。
 

「そんなに心配なら、一郎君も一緒にロッカクの部屋に泊まったら?」
「はあ?」
「ロッカクの部屋、僕らの使ってる客間の倍の広さがあるから、問題ないと思うけど」
「だからって、部屋をもらってる僕まで押し掛けるのはどうかと・・・」
 

 少しばかり心動かされながらも、そこまでする必要はないだろうと自分に言い聞かせる僕。

 
「今日は疲れたし、一人でゆっくり休むことにするよ」
「そっか。・・・そういやロッカク、ベッドどうする気なんだろう?やっぱり氷室君と一緒に寝る・・・」
「僕、ロッカクの部屋に行ってくる!!!」
 

 タイヨウさんの言葉を最後まで聞かず、僕は走り出した。
 後ろでなんかタイヨウさんが笑っていたけど、もうそれどころじゃない!!!

  

 あ〜あ、きっと明日になったら『ヒカルの保護者』って不名誉なレッテル、貼られてるんだろうな。

  

 そう、深く溜息を付いた僕だけど。

  

 

 次の日僕に貼られていたレッテルは、保護者を飛び越えて「氷室(君)の旦那さん」なんてゆーそら怖ろしいものだった。

  

  

 

  

 

 

 タイヨウさん・・・これからの夜道には気を付けたほうがいいよ?

 

 

 


  

 

<作品に対するコメント>
 

元ネタ提供、みかえる様。
  CHATでお話ししてるときに出た「ロッカクってヒカルの保護者二号ですよね?」の一言により出来たお話です。
ホントは純柴VSロッカクになる予定だったんだけど・・・。
なんか対決すると純柴負けっばなしになりそうだよな〜と思ってたら、勝負前から負けっぱなし状態に(笑)
そして初めてちゃんと(?)書いたタイヨウさん。この人こそどっかの獣神官なイメージかも。

 

〜 多輝節巳 様 PLAY OF COLOR 〜

 

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