その日、珍しくヒカルが学校へ出てきていた。

「お早う、ヒカル。学校で会うのは何日ぶりかな?」
 

 僕は笑いながら、自分の席に座っているヒカルの横に立つ。
 実は昨日もプライベートでは会ってるんだけど、学校に来るって聞いてなかったからちょっと淋しい。
 聞いてたら、この間買ったデジカメ持ってきたのに・・。
 

 だって制服姿のヒカルもメチャ可愛いんだもんV
 この、偶にしか見れないってところもかなり貴重だよね!
 

「・・・何をニヤけている」
「え?僕、笑ってる?」
「・・・・・・・・・・・・」
  

 あ〜、その嫌そ〜おな顔もすんごい可愛いV
 

 思わず相好を崩すと、ヒカルに溜息を付かれてしまった。

 どうやら最近の僕は、ヒカルを前にするといつも笑っているらしい。
 しかも『デレデレ』していると言われる。

 
 特に最近、萩原君が絡んでくるんだよね〜?
 自分が雪野さんに相手にされないからって僻まないで欲しいよ、全く。

 あ、しまった。
 思考がヒカルから逸れた。
  

 あんな萩原の顔なんか思い出しても時間の無駄なのに。←酷。
  

 しかも目の前には本物のヒカルがいるんだもん。
 他に余所見するヒマなんてないない!
 

「ヒカル、今日は一日いるの?」
「・・・・・・・・・・(こっくり)」
  

 ああああ、頷く姿も可愛いなあ!!!
 

「じゃあ、お弁当一緒に食べよ!でもって学校終わったら一緒に帰ろV」
 

 ウキウキと誘えば、ヒカルは暫く考え込んでいたけれど。
 

「・・・いいぞ。その代わり、そのまま家に来い」
「ええっ!?い、いいの?遊びに行っても」
「ああ。ついでに泊まっていけ」
「え、えええええええっ!?」
 

 あまりの衝撃に僕は仰け反った。
 

 

 と、泊まっ!?
 

 泊まっていけとっ!?
 

 

 あの、あのあのあの『氷室ヒカル』が!
 

 

 そ、それって・・・!
 

 それってつまりっっっっ!!!
 

 

「とうとう初夜っっっ!?」
 
「違う」
 

 力んで叫んだ僕に速攻突っ込んだヒカルが、嫌そうに顔を顰めた。

  
 ・・・そんなに嫌がられるとちょっと哀しい。

  
 背後でざわざわしている、ギャラリーどもの好奇の視線さえ気にならないくらいにヘコんだ(涙)
 

 そんな僕を見上げ、ヒカルが深く息を付く。


「昨夜から、親が帰ってきている」
「え?」
「・・・一人で相手をするのが億劫だ」
「ヒカル・・・?」
 

 目が合えばふっと俯いてしまうヒカルに、僕はどう声を掛ければいいのかわからなかった。
 

 ヒカルが養子だと知ったのは、そう昔の事じゃない。
 

 揃って貿易商をやっているヒカルの養い親は海外出張が多く、家に帰ってくることの方が稀で。
 定期的に家政婦さんが来る以外は、自宅で一人暮らしのような状態だ。

 
 その両親が、昨日から帰ってきているということは。
 

「・・・もしかして、それで朝から学校に?」
「・・・・・・」
 

 伺うように聞けば、黙って頷くヒカル。
 

 うーん。
 ヒカルがここまでして一緒にいたくないって事は、相当複雑な家庭環境なんだろうな〜。
 ヒカルがこんなに元気ないなんて珍しいし(無口なのはいつもだけど)ここは僕がヒカルの力になってあげないとね!
 

 頼られてるようだし!!!←思い込み。
 

「いいよヒカル。ご両親がいる間、僕がずっと傍にいてあげる」
「・・・本当か?」
「勿論!!!」
 

 縋るように(あのヒカルが、だ!)僕を見上げてくる金色の瞳に、僕は力強く頷いた。

 

 ああ・・・神様、ありがとう!
 

 ヒカルが・・・ヒカルが僕をこんなに必要としてくれる日がくるなんて・・・っ!!!

 

 生きてて良かった・・・・(感涙)。

 

 この分なら、本気で初夜も近いかもしれない!
 

 

 僕は心の中で鼻息荒く拳を握り締めていた。
  

 

  

 

 結局朝の言葉通り、ヒカルは最後まで学校にいて。
 僕は現在、ヒカルと共にヒカルの家へとやってきていた。

「純柴・・・」
「ヒカル、大丈夫だよ。僕が付いてる」
「ああ・・・」
 

 妙に気弱なヒカルを(内心激しくニヤけながら)励ましつつ、僕はヒカルの手を握った。
 いつもなら振り払われて終わりなのに、今日はしっかりと握り返してくる。
 

 ああああ〜!生きてて良かったああああっ!!!(壁連打)

 
 ちょっと不安そうなヒカルもめさめさ可愛いしーーーーーーっ!!!
 

  

 ホントに生きてて良かったっっっ!!!
 

  

 一人幸せを噛み締める僕の横では、やっと決心を固めたらしいヒカルがドアノブに手をかけていた。
 カチャリ・・・と小さな音を立てて、これまた小声で「ただいま・・・」と呟く。
  

 あ、ヒカルでも一応帰宅の挨拶とかするんだ〜・・・と感心した僕は。
 

「おかえりなさい!ヒカルーーーーーっ!!!」
「学校で苛められたりしなかったかいっ!?」
 

 きゃーーーっ!と勢い良く走り寄ってきた大人達にビビって引いた。
 その間にヒカルは僕の手からもぎ取られ、両側からぎゅーーーっっっ!と抱き締められてジタバタもがいていたりする。
 

  

 ・・・・・・・・・・。
 

  

 ・・・・・・・・・・・・。
 

  

 ・・・・・・・・・・・・・・・。
 

  

 ・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あれ?
  

 

 なんか想像してたご家庭と180度違うんですが・・・?(汗)
 

  

「ヒカルーーー!朝の寝起きも可愛かったけど夕方の気怠い感じも激可愛いーーーーっVVV」
「ヒカル!パパと写真撮ろう!写真!!!」
「まあ!パパったら、ヒカルとツーショット撮ろうだなんてずるいですわ!」
「そうか?よーし!じゃあ家族3人で写真撮ろう!纏めて一年分撮りまくろう!!」

 

 鼻息荒くデジカメ振り回す親父。
 

 ・・・つーか、一年分纏めて撮りまくるのか。

 
 そうなのか・・・(遠い目)。
  

 

「す、純柴・・・」
  

 思わず現実逃避に入りかけた僕を、大人達の腕の中から縋るようなヒカルが呼び戻した。
  
  

 はっ!?

  

 そ、そうだった!
  

 ヒカルは僕だけが頼りなんだ!!!
  

  

 きゅぴん☆と復活した僕だけど。
  

  

 なんでかヒカルを抱き締めたまま固まった大人たちに凝視されて、今度は途方に暮れる。

 
 こ、この場合。取りあえずは自己紹介だよね?

 

「あ、あの・・・お邪魔します。僕、ヒカル・・・君のクラスメイトで・・・」
「きゃーーーーっ!?君もしかして、ヒカルのボーイフレンド!?」
「いえ、恋人です!(即答)」
「純柴っっっ!?」
 

 あ、しまった。

 
 つい願望が先走ってしまった・・・。
 

 

 仕方なく訂正しようか、と口を開きかけたのだけど。
  

 

「駄目だーーーーっ!ヒカルはまだ嫁にはやらんぞーーーーーっ!!!」

 

 親父があばれだした(死)。

 

「まあ、パパったら。気が早いんだから(笑)」
「ヒカルは一生大切にしますから!!!」
「ダメダメダメダメだーーーーーっ!!!」
「そんなっ!?お義父さん!!!」
「ええいっ!お前のお義父さんになった覚えはないっっっ!!」

 

 尚も気炎を吐く親父と、それを宥めるお義母さん。

 

 ああ。結婚を反対されるときの定番の展開だなあ・・・。

 

 典型的な展開にちょっと悦に入っていた僕は、ヒカルにものすごい目で睨まれているのに気付いて、慌てた。
 

 近い将来はそうなるんだからそんなに怒らなくても良いのに、と思うんだけど、今はそんなことを言える状況でもないし。

 
「すみません。ホントは僕、ヒカルの同級生なんです」
 

 ぺこり、と頭を下げると、まあ!とお義母さんが目を輝かせた。
 

「ヒカルが家にお友達を連れてきたの、初めてねV」
 

 きらきらきら☆と輝く目でがっしと僕の両手を掴んだお義母さんは、
 

「ヒカルの事、よろしくお願いします!」
 

 頼もしくもそんなことを言ってくれた。
 

 改めて言われなくても、僕としてはヒカルとよろしくする気、満々なんだけど。
 

 折角だから、ここで良い印象つけとかないとね!

 
「ヒカルの事は僕にすべてお任せください!責任とって一生面倒みますから!!!」
「責任ってなんだ!?」
 

 速攻突っ込んでくるヒカルと親父は、この際無視。

 
「ヒカルに変な虫が付かないよう、僕が傍で目を光らせていますから!お二人は安心してお仕事に励んでください!!!」
「ありがとう、純柴くん」
「はい!!!」
 

 よっしゃ!お義母さんからの信頼ゲット!!
 

 これなら合鍵を貰える日も近いな!!(にやり☆)
 

 不服そうに僕を見ている親父の方は、後々懐柔するとして。

 
「今日はうちで夕食食べていってね」
「はいっ!ご馳走になります!!」
 

 ついでに泊まる予定なんだけどV
 

 今は言わないでおこうっと。
 

「あ、作るの手伝います」
「まあ、純柴くんって気が利くのね〜VVV」
「パパだって手伝うよ!」
「はいはい。それじゃヒカル、今日はヒカルの好きなもの、たあっっっっくさん作ってあげますからね〜〜〜Vイイ子で待っててちょうだいな♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 
 結局僕はお義父さんとお義母さんに挟まれて、和気藹々と夕食の用意を手伝った。

 小さい頃のプリティヒカル話とかも聞けて、かなり有意義な時間だった。
  

  

  

 

 

 

   

 この後、気付いたら一人で部屋に籠もってしまっていたヒカルに『天の岩戸』大作戦が行われたのは、後々の語り草になるかもしれない。

 

 

 

 

 


  

<作品に対するコメント>

  
………えーと。
最近なんとなくヒカルの家庭は崩壊気味なイメージ着き始めてるんで、敢えてそれを壊す事にチャレンジ。
テーマは、ヒカルを溺愛する養親。
愛情注がれすぎて、他人と関わるのが億劫になってしまったヒカルです。←なんじゃそりゃ。
そして今、両親に引き続き純柴まで追加。

 
………ヒカルの人嫌いは更に強くなりそうです(笑)

  

〜 多輝節巳様 PLAY OF COLOR 〜 
   

 

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