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氷室ヒカルには、『恋人』と呼べる人物が3人いた。 なんで3人もいるのかは置いといて、その3人はあんまり仲が良くなかった(当然だ)。 それでもまだ二人はなんとか友好関係を保っていたが、もう一人とはきっぱりはっきり断絶しているような関係で。 そんな相手の名前を、順に『大空レイジ』『純柴一郎』『戸岐航平』と言った。 この際、男であるはずのヒカルの恋人が、何故全員男なのかも置いておく。 これは、そんな日常の日々(嫌な日常だな)に起こった出来事である。
「分裂の実?」 「そう。この実を食べた個数だけ、食べた人が分裂・・・つまり増えるの。別名、増殖の実とも呼ばれているわ」 「・・・・・・・・・・・・・・」 ハイ、と差し出された小さな青い実を二つ受け取って、ヒカルは怪訝に眉根を寄せた。 眉間の皺はそのままに、目の前に佇んでいるメグルを見つめる。 「・・・喰うのか?」 「そうよ。ヒカル君がね」 ヒカルは手のひらに乗っている実を凝視するハメになってしまった。
事の起こりは三日前。
ヒカルの3人の恋人達は、とうとう我慢の限界が来たとばかりに『ヒカル争奪戦』を始めた。 それもパートナーであるドラゴンたちを使って、である。 個々が飛び抜けて能力の高いドラゴンを操る少年達の闘いは、幾つもの山を吹き飛ばし、川を干上がらせ、天変地異を巻き起こすまでに至り。 キレたオババによって頭の天辺に雷を落とされ、現在仲良く謹慎中である。 その3人から争いの原因を聞き出したオババは、メグルに命じてヒカルを呼びだした。 そして3人の内、一体誰が本命なのか?と問うたのだが。
「・・・別に、どれでもいい」
などどゆー『ふざけんなガキャーーーーっっっ!!!(ちゃぶ台返し)』状態な返事しか返ってこないに至って、ついに強硬手段へ訴えたのである。 つまりそれが、先のメグルが言った『分裂の実』。
本来ならば絶滅に瀕している貴重種のドラゴンにだけ与えることが許される、禁断の実である。 ソレをオババがエンスイ一族の特権を使ってヒカルへの投与を決めたのだ。 よーするにヒカルを3人に増やして、恋人達に一人ずつ与えることになったわけで。 単純明快なその処置が速攻で実施されることになったのだった。 ヒカルにとって見れば「冗談じゃない」レベルの話ではあるが・・・。
しかし。
逆らうにはメグルが怖すぎる(オババではない)。
仕方なく、ヒカルは手の中にある青い実を二つ、口へと放り込んで嚥下した。
「・・・飲んだが」 「うん。これで明日になったらヒカル君が3人に増えてるはずだから。今日は普通に休んでねV」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」
本当に大丈夫なのか?
微妙に冷や汗を掻きながら、ヒカルは与えられている自室へと戻っていった。
次の日。
ヒカルの恋人3人組は、朝から謹慎を解かれてほっと一息付いていた。 これでヒカルに会いに行ける、と全員が考えたことにお互い気付いていない。 ここ数日闘いに明け暮れていたおかげで、恋人との時間を全く過ごせていないのだ。 とにかく風呂に入って、速攻会いに行こうと考えていた面々は。
「はーい!今から皆にヒカル君を配りマース」
という、妙に明るいメグルの声に目を見開いた。
メグルの背後には、見慣れた白い影。
・・・が、三つ。
「「「は?」」」 「・・・なんで、ヒカルが3人もいるのかな〜?」 「メ・・・メグルさん?コレって一体・・・」 「これ以上3人がケンカしないように、オババ様がヒカル君を増やしてくださったのよ♪良かったわねえ、皆」 「いや、良かったわねえって言われても・・・ (汗)」
余りのことに喜びの言葉なんて一言も出ない一同。 当たり前である。
しかし。
「勝負だ!大空レイジ!!!」 視線を流せば更に二人、恋人がいたりするのだが、すでになにもかもがレイジの脳味噌の許容範囲を超えている。
「ひ・・・氷室?」 「行くぞ!大空!!!」 「ちょっ・・・!?」
メグルがポン☆と手を打った。
「コレでレイジ君には配布完了、と」
そのセリフに、配布なのか?!と心の中で突っ込む戸岐と純柴。
しかしそれを言葉にする勇気はない。
と。
「航平〜!」
残った2人の内の1人が、戸岐にぎゅ〜!と抱き付いてきた。
「うわ!?」 「航平〜!メグルが怖い〜(泣)」 「・・・もしかして、コレってばヒカルちゃん?」 青筋を立てつつも、こっくりと頷くメグル。 「なるほど。こーゆー風に分かれたんだ♪」 納得した戸岐は、にまりと笑った。
「じゃあこのヒカルちゃんは、当然俺のモノだよね〜〜〜♪さ、ヒカルちゃん。これからはずーっと勇者航平さまが一緒にいてあげるからV説教魔人のメグルさんだって怖くないよ〜」 「ホント?ホントに航平、メグル怖くない?」 「うんうんV怖くない怖くない」
「・・・あのねえ、あなた達・・・(怒)」
あまりの言われようにメグルの片眉がピクピクと動く。
怖い。
はっきり言ってとてつもなく。
「あ、あはははは〜。メグルさんってばマジで怒っちゃった・・・(汗)?」
ヒカルを抱き締めつつ、ずりずりと後退っていく戸岐。 ヒカルに至っては真剣に怯えているらしく、戸岐に抱き付いたままメグルの方を見ようともしない。
「じゃ、じゃあ確かにヒカルちゃん受け取ったからさ!!!」 「・・・・純柴君」 「は、はい?」 「じゃあコレが純柴君のだから」 「コレ、ってメグルさん・・・」
受け取ったヒカルを眺めつつ、純柴は困ったような顔をした。
「このヒカルって、もしかして・・・」 「多分、何事にも無関心で限りなく面倒くさがりなヒカル君だと思うわ」 「やっぱり・・・」
今までの二人を見れば、残ったヒカルの性格も自ずと想像が付くというもので。
「残り物には福があるって言うけど・・・」
きっと嘘なんだろーな・・・と純柴は思った。
そんなわけで、恋人である氷室ヒカルを仲良く(?)三等分した大空レイジ、純柴一郎、戸岐航平であったが。 簡単にうまくいかないのが世の常である。
…食事中…
レイジ×ヒカル組 「俺と闘え!大空レイジ!!!」
戸岐×ヒカル組 「あー、俺ピーマン嫌いーーー」
純柴×ヒカル組 「ヒカル」
…夜…
レイジ×ヒカル組 「勝負だ大空レイジ!!!」
戸岐×ヒカル組 「ヒカルちゃ〜ん、電気消すよ〜〜〜♪」
純柴×ヒカル組
「あやつらの様子はどうじゃ?」 オババがメグルに声を掛ける。 「三人の喧嘩はなくなったんですけど………」 離婚ってなんだ!?と突っ込むゴカクは今ココにはいない。 「ヒカル君を元に戻してくれ!っていうクレームがレイジ君と純柴くんからそれはもう、ひっきりなしで……」
そんなわけで結局ヒカルは元に戻されたわけなんだけど。
そうなれば当然。 「ヒカルちゃんは俺のモンだ!!!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「「勝負だ!!!」」」
結局のところ闘いは終わらないのだった。
で、繋ぎ直して再びCHATしにいくと何故かいつも多輝が二人いるんですよ(笑) |
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